『中土井さんとやったでしょ』
一限目が終わったとたんに、航のスマホには美咲からのメールが着信した。
メールということは他人に聞かれたくないということだろう、たしかにみんなに聞かれても困る。
航は振り向いて美咲の席を見たが、彼女はいなかった。周囲を見たがどうやら教室にはいないようだ。
『何で知ってる』
思わず返信してから航はしまったと思った、肯定したも同然だ。
『見てりゃわかる、ばか』
言葉を探しているうちに、休み時間が終わってしまったが、美咲は教室に戻ってこなかった。
「なんか調子が悪いって、早引けするって言ってました」
久野はどうしたという教師の質問に、美咲の友人が返答した。航の高校は単位さえ足りていればあまり面倒なことを言わない。航も気分でさぼることはたまにある。
でも、あさイチで見たときは、いつもながらの美咲だった。つまりはさぼりかと思う。しかしその理由は、どう考えてもさっきのメールということになりそうだ。
中土井とは、いつもどおりのというより、もともと教室では会話なんかしていなかった。そんなことをすれば周囲がうるさいに決まっている。
このところ航と中土井は一緒に登校していた。もちろん、たまたま会った風を装っていた。それが今朝はいつもの時間に彼女はいなかった。教室で目を合わすこともなかった。
「どうしてばれたのかわかりません」
昼休みに航は校舎の屋上にいた、もちろん先生と話をするためだ。
「うれしがって、へらへら彼女を見てたりしてたんじゃないの」
「そんなことしてませんって、第一、中土井は微妙に」
「君を避けてるか、だろうなあ、悲しい思いしたくないもんね、普通」
何となく先生の物言いも辛らつに感じる。
「もしかして先生も妬いてます?」
瞬間的に先生の目が黄色に変わった、ヤバい。
「冗談です、冗談ですって」
「今度言ったら殺すからね」
うわ、マジにしか聞こえない。しかし、なんで自分がこんな目にと思うと、いささか納得ができない。航は頭を抱えそうになった。
「何言ってんの、あんなかわいい子とやれたんでしょ、あきらめなさい」
すこしばかり機嫌は直ったみたいだ、言い方が柔らかくなった。
「問題は久野ね、もしかしたら彼女が、うーん、違うと思うけど」
どういうことだ、聞きかけて航には閃くものがあった。
「美咲が、姫、ということですか」
確かに彼女とは、言葉を必要とせずに分かり合える部分がある。
困ったときや悩んだ時に、お互いに声をかけることが昔からよくあった。
しかしそれは幼馴染だからだと航は思っていた。
「家に行ってみたら、触ってくれば簡単にわかるじゃない」
先生は気楽に言う、彼女にとって目的は航と姫を結び付けるだけ、あとはどうでもいいのだろう。
「ほかにどうすればいいわけ? ぱっと探せればこんな苦労してないって」
先生は切れ気味に答えた。この件について、頼るのは無理そうだと航はあきらめた。
「もしかしたら、いいや、考えすぎかもしれないから、気にしないで行っといで」
何か航は知らない秘密があるのかもしれない。
それを先生は隠している、どうも歯切れが悪い。
「わかりました、行ってみます」
航は先生を屋上に残して早々に教室に戻った。
美咲と航は幼稚園の時からの友達だ。家が近かったこともあって、手をつないで登園していた。そのまま小中高とずっと同じ学校にいる。
つまり一番近い異性だったはずなのに、彼氏彼女の関係にはならなかった。そばに居すぎるとそういうこともある、といつか直人が言っていた。
「一般論でいうと、津村に惚れてる、ということになるよね」
先生の言葉が航を悩ましていた。
『家に行ってもいいか』
『いいよ、誰もいないから』
美咲の両親はともに公務員だけれど、世間でいうほど暇なわけではなく、子供のころから遊びに行っている航でもほとんど顔を見ることはなかった。
それもあって美咲のメールを読むまでもなく、彼女が一人であることは想像がついていた。
あえてそれを言うということは……、航は考えることをやめた。どうせなるようにしかならないのだ。
「待ってた、入ったら鍵閉めてね」
インターホンから聞こえた美咲の声は、いつもと変わらない。何となく安心したものの、鍵を閉めてという言葉が航の心臓を早くした。
「上がってきて」
美咲は自分の部屋にいるらしい、階段の上から声がした。
実は航の家も美咲の家も建売で、間取りはほぼ同じ。
目をつぶっても歩けるというとオーバーだけど、聞かなくとも美咲の部屋はわかる
部屋のドアを開けたとたんに、航はひっくり返りそうになった。
「私の体、中土井に比べてどう、そそらない?」
美咲は全裸で待っていた。
胸は、美咲の方が、そんなことを一瞬でも思った自分を航は腹立たしく思った。
「なにしてんだよ、とりあえず服着ろよ」
航は手近なところにあったスウェットの上下を美咲に投げた。その拍子に何か白いものが床に落ちた。
確認するまでもなく美咲のパンツだった。要するに航が投げたスウェットは今の今まで美咲が来ていたものに違いなかった。
「ばか、すけべ」
美咲は拾い上げようとする航の手から、パンツをひったくった。全裸は見せられてもパンツは恥ずかしいのか、航はやっぱり女の子はわからないと思う。
「中土井とは何回やったの」
航は美咲が服を着ている間、背を向けていが、美咲の問いについ振り返りかけた。
「見るな馬鹿」
「言ってよ、何回やったの? 好きなの、彼女が」
「一回だけ、好きだ、った。かな。よくわかんない」
わずかな沈黙の後に、美咲が後ろから抱きついてきた。
乳首の突起が背中に当たるのがわかった。
「じゃ、私は二回して」
「愛してなんて言わないから、ずっと航のこと好きだったのに、なんで」
明らかに泣いているのがわかる声だった。
「ごめん、気づかなかった」
航も美咲は好きだった、でもそれは友達としてだと思っていた。
「な、大事な話がある。それを聞いてもらわないと、美咲とできない」
「なに、どういうこと」
航は姫との話をすることに決めていた。でもその前に確かめたいことがあった。
「右の胸触らせてくれ」
美咲に向き合うと端的に切り出した。
「え?」
美咲は両手で胸を隠した。
「なんで、揉み心地で決めるの、変態」
「違う、これから話す話を信じてもらうにはそうするしかないんだ、頼む俺を信じて胸を触らせてくれ」
真剣に頼めば頼むほど、変態度が増すな。それぐらいのことを考える余裕はまだあった。姫なら話は簡単、違えば、また自分に惚れてくれる女の子をなくすことになる。そう思うと悲しくもあった。
「わかった、はい、どうぞ」
航の態度に美咲は何か感じるものがあったのかもしれない、胸をガードしていた手をどけた。
ちょっとばかりおどけた態度はきっと恥ずかしいのだろう。処女の女の子が男性に胸を触らすのは、いろいろな感情がまじりあうのだろう。
航の手が美咲の柔らかい肌に触れた瞬間、映像が見えた。
「今の風景は、知ってる。覚えてる」
美咲の言葉を待たなくても、航にも美咲の心が伝わってきた。
ちょっと待って、美咲は姫じゃなかった、しかし、あの星で生まれている。どういうことだろう。
「そうだったんだ、思い出した。ツバイ兄さん、私がわからない?」
え、美咲は今何と言った?
兄さんと言ったような、ということは妹の生まれ変わり、俺には妹がいたという小尾Tなのか。
「兄さんは、もしかしてまったく思い出せていないの? 私、リュイだよ。双子の妹だった」
航は驚くと同時に、正直胸をなでおろした、調子に乗って手を出していたら……、妹とそういうことをしたことになってしまう。
「よかった。これで兄さんとエッチしても。ずっと好きだったんだよ。でも兄妹だったから」
美咲は航の思いとは真逆のことを言った。
「何いっての、妹とできるわけないだろ、まったく。からかうのもたいがいにしろ」
「今は血がつながってないから。いいじゃない」
美咲はあっけらかんと言った。理屈はそうだ、でも。
「昔の関係を言う? じゃあ、逆に航のお姉さん、朋さんが姫の生まれ変わりだったらどうすんの。やっちゃっていいというの。無理でしょ、今の関係で考えてよ」
まったく思いつきもしないことだった。朋というのは航の三歳上の姉で、今は大学生で一人暮らしをしている。確かにその可能性はないわけじゃなかったのだ。
「キサムさんはそこまで言わなかった? まったくあの人はそういうところが」
キサムは先生の前世の名前だ、ということは。
「うん思い出した、兄さんの、うーん言いづらい、航がさっき見せてくれた映像で全部思い出した」
そういうことなのだ、おそらく中土井も同じ光景を見た。そして、わからないままにも、姫とツバイの関係だけを直観的に理解したのにちがいない。
「中土井と違って、私は姫と航のことがあってもできるよ」
美咲はそういうとスエットの裾に手をかけた、脱ぐ気満点らしい。
「待てって、それはうれしいけどさ、こっちだって心の準備ってもんがあるだろう」
「何言ってんの、いつも頭の中はやりたいばっかりの癖に」
航はぐうの音も出なかった、確かにそれは言えていたからだ。
「そうだけど、美咲のこと、いや違うリュイの話を聞かせろよ、やるのはそれからでもいいだろう。たぶん先生も知ってるんだろ、俺だけ知らないのは嫌だ」
そうかもね、話したら、してくれる? 美咲はそういうとベッドの上に座りなおした。問題はスウェットを脱いでしまってパンいち、ということだ。目のやり場に困が、まあ悪い光景ではない。
「兄さんが死んでから王国はちょっとした騒動になったんだ」
神殿につかえる巫女が護衛の将校と心中したのだ。ツバルの家族は連帯責任ということで捕縛されたらしい。
取り分け神官の怒りはすざましく、神の怒りを抑えるためにツバルの家族全員を生贄にすると言い出した。
「わかる、兄さんのしたことで私まで殺されることになったんだから、怖かったんだから」
美咲は、その時のことを思い出したのだろう。話しながらも顔が恐怖に歪んでいる。神殿の前に跪かされ、首をはねられることになったのだという。
航は言葉がなかった、前世とは言え自分のしたことで美咲をはじめ家族が殺されたのだ。
「あ、死んでないから。王が止めてくださったの、たぶんヘルムが無理やり引っ張ったのだろうと。王は姫の性格をよくご存じだから、罪はあれを巫女に選んだ私にあると」
美咲は、航の落ち込んだ表情に、何か留飲を下げたようだ。くすくす笑った。
「よかった、そうなのか、早く言えよ。罪悪感持っただろうが」
本当によかった。美咲にからかわれた感はあっても心からそう思った。あやうく寝ざめが悪くなるところだった。
でもそうなると神官の怒りはどうなったんだ
なんで美咲まで生まれ変わったんだ。
一家全員を生贄にしようとまでいうほどの怒りは、どうやって収まったというのか。
「キサムさまが代わりに巫女になるとおっしゃったの。条件として私が魔術師になることになって」
「先生が姫の代わりに巫女に? 俺たちと一緒に死んだとか言ってたけど」
「噓よ、津村に罪悪感をあたえて、ヘルムさまを探すように仕向けたんだと思う」
なるほど、よくよく自分は操られやすいのだと航は思う。
「じゃあ美咲は?」
「私も結局、魔術師として人生を終えた。処女のまま。あ、先生もね」
「じゃあ、美咲も先生も俺よりずっと年寄りってことか」
前世を覚えているということは、そういうことになるんじゃないか、妹が自分よりはるかに人生経験が長い、航は何が何だか分からなくなってきた。
少なくとも彼女にはできそうにない、今でさえ上から目線なのにより一層。
「うーん、ところがそうでもないみたい。なんかそうだったということはわかるんだけど、何も思い出さない、消えちゃってるみたい」
それが本当なら付き合っていけるかもしてれないが、航にとっては一抹の不安が残る話だった。
「気にしなくていいんじゃない、もともと航は私から見ればガキだし」
カチンときたが、今までの人生思い起こすと確かに美咲の言うとおりで、航は言い返す言葉が見つからなかった。
「ね、そんなことより、私かわいそうじゃない? 兄さんのこと好きだったのに、兄さんのせいでずっと処女」
知るか、という前に美咲が飛びついてきた。
美咲の熱い手のひらが航の両ほほを包み、その唇が航の唇に押しあてられた。ついこの前までは、女の子とキスなんて考えられなかった航だったが、もう三人目。
さすがにちょっとばかり余裕が生まれてきている。
先生の時はいつも向こうから強引に、中土井さんは二人ともがちがち。
美咲は、抱きついてきたはいいけれど、その先どうすればいいかわからないようだ。唇を押しあてたまま動きが止まっている。
航は、ガキだと言われた仕返しをしてやろうという気になった。少なくともエッチに関しては自分の方が先輩なのだ。
舌で美咲の閉じた歯をこじ開ける、彼女のぬめりのある舌に航は自分のそれを絡めた。
頭にまわした美咲の腕に力が入る。
唇を離すと、美咲は大きく息を吐いた。
美咲の胸は、やわらかい。ぷよぷよという感じがする。それほど大きくはないけれど触ると楽しい。乳首を噛むと「あん」と美咲があえぐ。こんなに可愛かったんだ、今までなんてもったいないことをしていたんだと思う余裕があるのは二人目だからだろうか。
白いレースのついたパンツに手を掛けると、さすがに美咲の体が緊張したのがわかった。
毛は薄いが髪と同じで柔らかい。われめに沿って動かすと、ゆっくりとそこがぬめりだした。
「あ、だめだ、ゴム忘れた」
いよいよという寸前で、航は美咲の体を離した。避妊せずにするのは、絶対にだめって何かに書いてあった
姫を探すなら美咲には一層無責任なことはできない。こういうところは律儀なのだ。
「大丈夫だよ、私、女の子の日きっちり来るから。今日は絶対に大丈夫」
美咲は航の顔をじっと見つめ言った。
「いれて」
中土井と違い、美咲の中はきしむような感覚があった、ゴムなしだからかなのかはわからない。自分のものが押し広げていく感じが生なましい。
「大丈夫か」
「ん、痛いかも」
「やめる?」
「だめ、もっときて」
美咲はよほどつらいのかもしれない、声が今にも消え入りそうだ。
「航、大好き」
美咲は航の背中にまわした腕に力をこめ、耳元であえぐように言った。
「うわ、シーツが」
終わった時、航は思わず叫んでしまった。中土井の時とは異なり、ベッドのシーツにはくっきりと血の跡があった。
「中土井の時はなかったんだ」
「中土井は私と違ってアスリートだから」
風呂場でお互いの体を洗いながら美咲はいった。スポーツで膜が破れるということらしいが、航にはよくわからなかったというのが本音だ。
でもそれを言うとまた馬鹿にされそうなので、黙ることにした。
「ね、もう一回しよ」
「ここでか」
「だって洗い流せばいいじゃないここなら。それにほらもう大きくなってる」
女の子って積極的だ、それは中土井の時も思ったことだった。
「この世界にもう一人、生まれ変わっているみたい。姫じゃなくて、誰かが覚醒したみたい。魔術師としての直感」
ベッドに戻って、裸でまったりしていると美咲が急に難しそうな顔をした。
「え、まだ生まれかわりがいるの? どんな女の子だろ。まだ姫も見つかっていないのに」
とたんに平手打ちを食らった。それもかなり本気の。頬がジンジンする。
「ばか、うれしそうな顔すんな浮気者」
いきなり何するんだ、と言いかけたが、美咲の目に涙が浮かんでいるのを見てやめた。
また新しい女の子とやれると思ったのは確かだ、よほどエロい顔をしたのかもしれない。今やったばかりの女の子の前でそれはないな、とちょっとだけ反省した。
「中土井のことはもうすんだことだから許す、ヘルム様も本妻だからあきらめる。でもあんまり調子に乗ると、私抑えられないかも」
美咲の目がわずかに緑に変わった。先生とは違うがヤバいことには変わりなさそうだ。
「わかった、わかりました。美咲も大事にします。でもさ、触らないと姫が確認できないんだよ、どうすんのさ」
美咲は黙ってしまった。
「まず触ればいいじゃん、違ったらやっちゃうことないでしょ。胸までは許す」
下を向いてすねたように言う美咲が可愛くて、航は自分たちが裸なのも忘れて美咲を抱きしめた。
やわらかい、触れているすべての皮膚が美咲の体温を感じる。当然体の一部分は復活してしまった。
立て続けに三回となると、さすがに二人ともぐったりしてしまった。
美咲ももう痛がることもなく、思う存分エッチを楽しんだ気がする。
今までで一番、と言ってもたかが四回目だが、気持ちいいエッチだった。
このまま眠れたら幸せかも、ついそんなことを思った。でも、たぶん美咲のおやじさんに殺される。
航は重い体を起こしてベッドから出た。そろそろお母さんが帰ってくるころだ。
「えー、もう帰るのもっとこうしていたい」
それは航も一緒だがそうはいかない。
帰したくなさそうな美咲をなだめ、ようやく玄関までやってきたが、美咲は手を離さない。仕方なく玄関でキスをしていたら、ハイヒールの靴音と、ノブをまわす音が聞こえ、二人は飛びのくように離れた。
「あら、お久しぶり、元気だった。もう帰るの?」
本当に危ないところだった。素っ裸のままで玄関まで来かけた美咲に、無理やり服を着せたのは大正解だった。
「昔みたいにもっとおいでよ。美咲ったらしょっちゅうあなたのことを」
「お母さん、何詰まんないこと言ってんの、やめてよ恥ずかしい、航が困ってるじゃない」
「あら、航ってよぶの、ふうん」
お母さんはやけにうれしそうな顔をした。思いっきりやばい状況だ、航はまた来ます、と言って頭を下げると、一目散に逃げだした。いやな汗が出ている。
『お母さんによかったねって言われた、お父さんには黙ってくれるって。でも私を捨てたら殺されると思って』
航が家に着く前に届いた美咲からのメールには、とんでもないことが書いてあった。
当然のように母親の目は騙せなかったらしい、今度会ったらどんな顔をすればいいのだろう、気が重くなってきた。
中土井はどうするのかなあ、直接先生の声が頭に届いた。そうだった、忘れてた。このままなら、やり捨てみたいになってしまう。美咲は好きだけど、中土井も。
「何を調子に乗ったこと言ってんの、知らないよ姫に会う前に誰かに刺されるんじゃない」
背中に、ざわっとしたものが走る。もしかしたら、自分はとんでもないことに陥ってるのかもという気がしてきた。
「大事な話があるの、そのまま、うちに来なさい」